すみれに関わる「うんちく」を少し
由来 細辛 発芽 蜜線
由来  時折、文献で『すみれ』という言葉の由来について記載されていることがあります。
 引き合いに出されることが多いのは、牧野富太郎博士WHO!の『牧野新日本植物図鑑』に記載されている墨入れ説ですね。大槻文彦博士の『大言海』という事典にも同様の記載があるそうです。でも気になるのは、牧野博士の研究をされた中村浩博士の『植物名の由来(東京書籍、昭和55年)』ですね。
 中村博士は、万葉集に「須美礼」と表現された美しい花を、大工道具や黒色の墨に喩えることには納得がいかないと、古代貴族の風流との感覚的な差を強調されています。江戸時代の墨入れと万葉時代のものとが、同じ形をしていたかどうか分からないとも述べています。確かに不思議というか変です。第一、墨斗の形は、すみれの蕾には似ていても咲いた花からは連想され難いのではないかということですね。
 そこで中村博士は、古代の武者が持ち運んだ旗印〔指物〕の紋所(もんどころ)である『墨入角(すみいれかく)』を提起しています。この旗印は、墨取紙という正方形の紙を折り紙のようにたたんだ笠標で飾られていましたが、この紙は白や紫で染められていたというのです(紫色の旗印はスミレの花を連想させる形状らしい)。旗印は武者のアクセサリーであり、小型の指物は、後に婦女子がカンザシとして頭髪に刺す風習を生んだと言われているそうです。『すみれ』の由来こそは、まさにスミイレ旗ではないかとの考えを深めたと結んでいます。
1999/11/11

 さて、後日談ですが、2006年になって仕入れた情報では正倉院に墨斗が格納されており、現在の物とほぼ同じ形状をしているとのことでした。これが事実とすれば、前半に記載した疑問の一部が確認されたことになります。ただ、個人的には、やはりシックリきません。
2006/05/17

 上で「正倉院に墨斗が格納されており、現在の物とほぼ同じ形状をしている」とのコメントを紹介しました。その写真を見る機会があり、コメントを訂正することにします。正倉院収蔵の『銀平脱龍船墨斗(ぎんへいだつりゅうせんのぼくと)』は龍頭形の装飾がある船の形をしています。すみれに見えるというには無理があります。
 再度調べたキッカケですが、みなみらんぼう氏の著作「花の50名山」を読んだことによります。ご承知の通り、みなみ氏はシンガーソングライターでいらっしゃる訳ですが、山歩きの達人でもいらっしゃる様子。やはり、墨斗説に疑問を感じていながら、物知りおばぁちゃんの説明と同じ話が植物図鑑に記載されていたので「おばぁちゃんてすごい!」と納得するお話が掲載されています。よくわかるのですが、その図鑑、日本語の歴史からすれば極く最近に編纂されたものと考えてしまいます。
2017/09/28
細辛  スミレサイシンやナガバノスイレサイシンのサイシンとは何でしょう。「葉が細辛に似ている」と説明されたとしても、その「細辛」自体を知っていなければ説明に意味がありませんね。
 細辛は観葉植物として、かなり古い時代から栽培されていた植物なのです。天保12年の書籍『細辛種類次第不同』に記載されている種が、7種現存しているそうです(日本細辛研究会)。盆栽ならぬ盆草として愛でていたとのことですが、『谷間亀甲』という品種の写真を見るとフイリフギレスミレの葉にそっくりです。
1999/11/11
発芽  すみれのタネの発芽について、こんな記述があるのですが、本当でしょうか?
 ・・・花後~秋にできる閉鎖花HELP!(花が咲かずに結実)のタネを採ります。実の部分は初めは下向きですが、それが横向きになった時に採取して、すぐ播くと2週間程度で発芽し、一方、上向きになってから採り播きすると、翌春にならないとは発芽しないとのこと。本当でしょうか。
NHK出版 『家庭園芸百科8-春の山野草100』より

蜜線  植物は、葉で作った澱粉を糖に変えて貯蔵場所(地下茎等)に運びます。虫媒花の蜜は、この糖を濃縮したもので、蜜線から分泌する訳です。さて、すみれの場合、蜜は雄しべから分泌されますが、蜜線はどこにあるのでしょう。それは距の内側です。
 唇弁の基部で袋状に膨らんで花の後方に伸びている器官距HELP!です。この距の内側に、雄しべから2本の突起が伸びているのですが、当然、外からは見えません。実は、蜜線はその突起の先端にあるのだそうです。イメージでは、蜜線は雌しべの先か基部にありそうですよね。勿論、雌しべ(子房を含む)から蜜を分泌する植物も多いのですが、独立した突起状の蜜線を持つ、ツリガネニンジンのような植物もあります。
 すみれは、花の奥の方まで虫を誘引することでしょう。でも、そんな奥までモグリ込んでくる虫って、どんな虫なんでしょうね?
 答え:ハナバチ(膜翅目)の仲間です。でも、長~い距が特徴のナガハシスミレには、とても潜り込めませんが、長~い口(口吻)を持つビロウドツリアブ(双翅目)はへっちゃらなのだそうです。大自然の不思議っていうヤツですね。

 (1999/06/26) Latest Update 2019/03/04

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