ナガハシスミレ (長嘴菫) [別名:テングスミレ、ナガオスミレ]
【注】近年の研究成果により、学名が変更される可能性が極めて高い(発表待ち状態)。
ナガハシスミレ
福井県敦賀市 2008年4月2日 alt.=15m
ナガハシスミレ ナガハシスミレ
福井県敦賀市 2008年4月4日

ナガハシスミレ ナガハシスミレ
岩手県北上市 2002年5月2日 岩手県花巻市 2002年5月3日
ナガハシスミレ 岩手の距はひょろひょろとしている

新潟の距はツンと上を向いている

う~ん、おもしろい
岩手県湯田町 2002年5月3日
ナガハシスミレ ナガハシスミレ
岩手県奥州市(前沢区) 1997年4月29日 月山
ナガハシスミレ ナガハシスミレ
新潟県村上市(旧朝日村) 2001年4月29日 新潟県村上市(旧朝日村) 2006年5月3日 alt.=190m
ナガハシスミレ

根生葉と茎生葉HELP!の一部は越冬する

雪の下は存外暖かいという

翌年、緑色のままで見られた
岩手県湯田町 2005年5月21日
分類 エゾノタチツボスミレ類(従前はタチツボスミレ類)
学名 基本種 Viola rostrata Pursh(北米に分布)*ただし、2014年、日本産とは別種と判明 Published in: Fl. Amer. sept. 1:174. (1813)
変種 ナガハシスミレ Viola rostrata auct. non Pursh var. japonica (W. Becker et H. Boiss.) Ohwi
品種
シラユキナガハシスミレ Viola rostrata (auct. non Pursh var. japonica) f. albiflora Y. Ueno Published in: J. Jap. Bot.,57: 30 (1982)
ミヤマナガハシスミレ Viola rostrata (auct. non Pursh var. japonica) f. alpina E.Hama
異名
由来 rostrata : 嘴(くちばし)状の
外語一般名 【英】long-spurred violet、【仏】violette a long eperon
茎の形態 有茎。全体の印象はオオタチツボスミレに近い。
生育環境 多雪地帯。低山の乾燥ぎみの落葉樹林下などで見られる。
分布 国内 北海道から島根県の日本海側、四国に分布。小型の個体が太平洋側でも見られる。未確認ながら、広島県に一般自生情報がある。
海外 母種が北米大陸の北東部に分布する(*ただし、2014年、日本産とは別種と判明)。
補足 地域変種としてのナガハシスミレは日本固有種とされる。
花の特徴 形状 中輪。側弁の基部は無毛。上弁や側弁が反り返りぎみなので、花冠全体が細く縦長に見えることがある。
紫紅から淡紫色。
10~30mmと長いので同定は難しくない。白い場合が多い。
花期 普通。
花柱 棒状。
芳香 微香があるとされる(未確認)。
補足 花弁が反り返る傾向がある。
葉の特徴 形状 円状心形。先端は軽く尖る。
表面は光沢のある緑色。
補足 無毛。越冬した大きな根生葉が地面に貼り付いていることが多い。托葉は櫛の歯状。葉脈が軽く凹む様子が見られる。
種の特徴 形状
補足
根の特徴
絶滅危惧情報 北海道:準絶滅危惧種、茨城県:絶滅危惧Ⅰ類、東京都:絶滅危惧Ⅰ類、徳島県:絶滅危惧Ⅰ類
基準標本
ナガハシスミレ : 青森県
ミヤマナガハシスミレ : 長野県 八方尾根 by 寺島虎男
ミヤマナガハシスミレ : 長野県 八方岳 1962.7.26 by E.Hama (京都大学収蔵)
染色体数 2n=20
参考情報 <
タチツボスミレ類における「種」の存在様式の解析 代表研究者・植田邦彦(金沢大学)
その他 日本以外には、遠く北米大陸の北東部に分布する隔離分布型。
北米と日本の個体は母種と変種の関係だが、特に相違点が見られないと言われる。*注(2014年、全くの別種との報告があった)
この種の分布が「最高積雪深100cmのラインに一致する」との記述を多く見かける。『原色日本のスミレ(浜栄助氏WHO!著)*(出典:G001) 』には「最高積雪深50cmのラインのほぼ一致する」と記載されている。実際に歩いた感触では、最高積雪深50cmではカバーしきれていないと思われる。

ナガハシスミレ ナガハシスミレ
青森県三沢市 2008年5月8日 alt.=18m

ナガハシスミレ ナガハシスミレ
ナガハシスミレ
新潟県上越市 2013年5月10日 alt.=140m

 主に日本海側の多雪地帯に自生するとされていますが、太平洋側の岩手県でも普通に見られることを頭に置いて下さい。薄紫の花が濃い緑色の葉に映えます。特徴である長い距からテングスミレなどと呼ばれていますが、ナルホドというところでしょうか。この長い距についてはうんちく長い距についての補足説明を参照して下さい。
 出逢いはいつも偶然。この時期、まだナガハシスミレのことを知らなかったのです。「なんだ、これは?」が心の第一声でした。
1999/06/26

 書籍には、変種としてミヤマナガハシスミレ(北アルプスの小型種)、品種としてシラユキナガハシスミレ(シロバナナガハシスミレ)が記録されています。オトメナガハシスミレという名前も散見されますが、学名は確認できません。
1999/11/12

 長い距にある蜜を正面玄関から吸う昆虫は、ナガハシスミレにとってありがたいお客様ですが、距を横から食い破ろうとする「裏口入学」をする昆虫もいます。この招かざる客に対して、ナガハシスミレは「蜜を距の不特定の位置に置くこと」によって対抗しようとしているとの知見があります。
2001/05/09

 新潟県に自生するアワガタケスミレは、従前、ナガハシスミレの変種として扱われていましたが、葉の形状の違い等から独立種として扱われるようになりました。この考え方は定着の方向だと思われるものの、しばらく、ナガハシスミレのページに置いていました。
2008/02/06

 青森県では海岸線と呼んで良さそうな防砂林の中でもナガハシスミレが自生していました。距に特徴があって、弧を描くように曲がり、距の先は結果的に下を向いていたのです。ナガハシスミレの中でもユニークな形状でした。
2008/05/13


 *注
 金沢大学による2011から2015年の研究によると、『外見が極めて類似する「北米産ナガハシスミレ」は本邦産ナガハシスミレと大きく異なり,その他の北米,ヨーロッパ産の種類とともにすべてエゾノタチツボスミレ類に分類されるべきことが判明した』とされる。これが事実とすれば、国内に自生するナガハシスミレは「北米産の個体群を母種とする日本産変種である」という位置づけ自体が否定されたことになる。学名を変更しなければならないという意味だと思われるが、如何なものだろうか。似ているだけの別種で、隔離分布ではなかったという驚愕の研究成果である。因みに、本文で「他人の空似だった」と断定されている。
2016/10/26

ナガハシスミレ ナガハシスミレ
福井県敦賀市 2008年4月2日

 この自生地で見掛けた個体の多くは、距をほぼ垂直に近い角度(80度以上)で持ち上げていました。かわいそうですが、その距を除去してみますと、2本の脚柱が見えてきます。この先端に蜜線があって蜜が滲み出る訳です。
2008/04/07

 相当数の個体を調べて、距内の脚柱の位置(距の先から脚柱の先までの距離)にはバラツキがあることが分かりました。
2008/05/21

参考画像を表示します

ナガハシスミレ ナガハシスミレ
新潟県西蒲原郡 2010年4月27日

 距の長さはまちまちですが、稀に長さが普通のオオタチツボスミレ程度にとどまる個体も見られます。左の写真の左の花では、距が短いことが分かります。オオタチツボスミレ等の場合、茎生葉の腋から伸びる腋生花(腋花)が普通ですが、ナガハシスミレの場合、どうやら根生花も普通に見られるようです。
2010/04/28


ナガハシスミレ ナガハシスミレ

<よもやま話メモ>
 「ナガハシスミレの距が植物形態学的にどのような機能を持つか」について、一般には「花粉を媒介するポリネーターHELP!を選んでいる」という認識で一致していると思っていた。改めて具体的に説明すれば、長い距の奥に蜜線があり、これに届く口吻を持つ昆虫でないと受益者になれないので、結果的に選別されることになる訳だ。ところが、これに異を唱える文章を読んだ。それは「距が長い理由は、ポリネーターに存在を知らしめるためではないか」という論であった。
 文脈から察すると、ナガハシスミレの距は一般に斜め上を向いているので、液体である蜜の保管場所としては適さないと思ったのかも知れない。実は、一瞬ながら、「へぇ、なるほど!」と思ったのだが、幾つかの点で不合理で、結果的に説得力に欠けることに気が付いた。確かに蜜は液体であるが、どちらかと言えばゲル状と表現すべき状態であり、おしべの脚柱からにじみ出た後で流れ落ちるような性質ではない。
 少し角度が変わるが、「長くて持ち上がった距」が昆虫たちの複眼から見て目立つものかどうかがポイントだと思う。存在を知らしめるということは遠くから認識されるという意味であろうが、彼らにとっては「形状」より「色」や「芳香」の方が先ず重要であることが科学的に判明している。細かな形状については、近くまで飛んで来てからの話なのだ。蛇足ながら、彼らが感じる「色」とは、似たものを探せば赤外線カメラを通して見た場合に近いもので、ヒトの目では単純に判断できない。


 京都新聞サイトによりますと、京都府京丹後市で多距型のナガハシスミレが20株以上まとまってみつかったそうです。「まれに奇形になることはあるが、群生しているのは珍しい。大学などの専門機関に調査を依頼してみれば」と府立植物園の松谷茂園長が話しているとのコメントがありましたが、新聞社はこれを「学術調査」と補足しています。元自然公園指導員から「株数が多いため、突然変異ではなく新種だろう」との見解を得たとも記載されています。楽しい記事ですが、学術調査が行われるか否かは疑問です。
2010/06/02

 ページトップから分布図(国内水平分布)を確認していただきますと分かるのですが、唐突に「徳島県」に分布していることが分かります。以前に、これは何らかの間違いではないかと訝ったことがありました。しかしながら、四国ですみれを研究されている方々の情報を得て、たまたま写真も拝見する機会があり、その様子を見る限りではナガハシスミレだろうと思います。日本海側に多いすみれですが岩手県には普通に自生しており、日本海側の!と限定してはいけないということになります。
2010/11/16

 少し困惑しながら、東京都に「絶滅危惧」を加えます。写真は確かにナガハシスミレであり、信用できる情報提供者によるものです。ぜひ、自分で確認したいと思いますが、環境が悪化して個体数が著しく減少して、また花を付けないことが多くなったとコメントされています。見つけ出すのは至難の技かも知れません。
2010/12/02

 伊豆新聞のサイトで、伊豆自然観察会会員をされている北島光氏が発信された『伊豆での幸運な出合い ナガハシスミレ(伊豆自然観察会)』という記事を見つけました。なんと、伊豆にナガハシスミレが自生している・・・。
 以前、茨城県の概ね「ど真ん中」でナガハシスミレが自生しているという情報を確認に出掛けたことがあったのですが、見つけ出すことができなかったという経験があります。あの当時と同じ気持で記事を読みました。記事では、ナガハシスミレを探す父娘の目の前にドンピシャリで現れる個体群のお話が綴られています。なんとも羨ましいお話でした。
2016/03/08


(つぶやきの棚)徒然草

 (1999/04/03) Latest Update 2024/01/08 [860KB]

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