すみれの分類(ちょっと補足)
すみれの分類

 文献によりますと、スミレ科に分類される植物は世界中に21属(約980種)が記録されているそうです。ちょっと驚いてしまう事実なのですが、その大多数が木本(樹木になる)属なのです。一般的な日本人の『すみれ観』には「山路来てなにやらゆかし菫草」という俳句などが醸し出すイメージが根幹にあって、すみれは山中の道端に静かに咲いている小さな紫色の「草本」というイメージがあるのではないでしょうか。でも、世界の植物層に目を向ければ(^^;)、草本属は少数派(下表参照)で、その中の一つが、いわゆる「菫草」であるスミレ属なのです。ただし、種の数では最大ですね。

# 主要な生育地 花の形状 その他の特徴
1) Leonia 6 アマゾン川流域 花は放射相称 木本
2) Rinorea 350 熱帯 花は放射相称 熱帯に広く分布、木本(低~高木)
3) Scyphelandra 4 熱帯アジア 花は放射相称 木本
4) Melicytus 5 オセアニア 花は放射相称 木本(低木)、小さな花
5) Hymenanthera 7 オセアニア 花は放射相称 木本
6) Fusispermum 2 熱帯南アジア 花は放射相称 木本
7) Rinoreocarpus 1 熱帯アメリカ 花は放射相称 1属1種、木本
8) Gloeospermum 12 熱帯アメリカ 花は放射相称 木本
9) Alexis 3 熱帯アフリカ西部 花は放射相称 木本
10) Isodendron 14 ハワイ 花は左右相称 木本、ハワイ諸島固有
11) Paypayrola 7 熱帯南アメリカ 花は左右相称 木本
12) Amphirrhox 6 熱帯南アメリカ 花は左右相称 木本
13) Hybanthus 150 (資料なし) 花は左右相称 草本を含む、木本(低木)、が多い
14) Cubelium 1 アメリカ東南部 花は左右相称 1属1種、草本
15) Noisettia 1 熱帯南アメリカ 花は左右相称 1属1種 orchidiflora 橙色の花、木本(低木)
16) Schweggeria 3 ブラジル 花は左右相称 木本
17) Corynostylis 4 熱帯アメリカ 花は左右相称 つる性木本
19) Anchietea 8 熱帯南アメリカ 花は左右相称 つる性木本、「翼」のある種子を持つ
20) Agatea 12 東南アジア~フィジー 花は左右相称 つる性木本、「翼」のある種子を持つ
21) Viola 400 温帯 花は左右相称 下の表を参照して下さい

Viola属のグループ(類または節)

# 類(節) 主要な生育地 形態 補足
1) Nosphinium ハワイ諸島 木本
2) Leptidium 中央、南アメリカ 木本
3) Rubellium 南アメリカ(チリ) 木本
4) Tridens 南アメリカ(アンデス山脈) 草本 アンデス固有
5) Xylinosium 地中海沿岸、アフリカ南部 木本
6) Sclerosium インド、アフリカ東岸 草本
7) Erpetion オーストラリア、タスマニア 草本 バンクシィ(ヘデラケア)
8) Kitaminium (Shiretokonium) 日本、ロシア 草本 シレトコスミレ 1種のみの単独節
9) Viola 温帯域全般 草本
10) Delphiniopsis 南ヨーロッパ 木本
11) Biflorae アジア 草本 キバナノコマノツメ 日本に2種が自生
12) Chamaemelanuim アジア、北アメリカ 草本 キスミレ 日本に4種が自生
13) Andenium 南アメリカ(アンデス山脈) 草本 アンデス固有
14) Melanium ヨーロッパ、北アメリカ 草本 パンジーの原種
15) Chilenium 南アメリカ 草本
 上記の表は、故橋本保先生WHO!の講義を受けた際にいただいた当時の資料をベースにしており、属の数は21です。下記の表は、これに2属を加え、亜科および連という区分の概念を意識して再編集したものです(北海道の細川一実氏がまとめられた資料も基本概念が同じで参考になりました)。
 これで、もう一歩スッキリしたと思ったのですが、あくまで形態的特徴を基礎とした植物分類であり、塩基配列の解析をベースとした植物系統分類の技術で見直すと、必ずしも、スッキリする訳ではないようです。即ち、系統樹におけるクレードは生物進化における流れや系統を理解する基礎になります。このクレードが亜科や連という区分でグループ化した結果とがうまく関連していれば納得できるのですが、どうも関連性が薄すぎるように思われます。表右端のCがクレードのグループを表しているのですが、どうみてもバラバラにしか見えませんね(笑)。
 因みに、クレードで辿る限り、花の形状(放射相称、左右相称)は進化の流れや系統とは余り関係がないことになり、ちょっと不思議です。
2014/03/20


すみれの分類
よもやま話メモ  木本のすみれと草本のすみれのグループがあることを分かっていただけたと思います。ここで、また驚いていただくかも知れませんが、草本のすみれは、木本のすみれから進化したとされているそうです。
 地球が何度かの氷河期を経験している間に、すみれの木たちは耐寒性の強い草に変わりながら、ゆっくりと世界中に勢力を拡大していったというのです。確かに、日本のすみれたちの多くは夏の蒸し暑さが苦手ですね。それから、花に注目すると、すみれの木たちの多くは放射相称、草たちは左右相称ですが、ラン科などでも見られる進化の傾向に照らして、左右相称の花の方が進化の度合いが進んでいるのだそうです。

 (1999/06/26) Latest Update 2020/04/21

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