コミヤマスミレとニョイスミレの雑種の可能性があるとしたのは「写真集 日本のすみれ(出典:S002) (浜栄助氏)」ですが、同時に稔性があることも記載して、更に調査が必要と補足していました。詳しい情報が記載されている数少ない資料です。コミヤマスミレ以上に根から新芽を出して増える傾向が強いと説明しています。
2009/11/17
現在でも情報が極めて少ないすみれです。前述の「写真集 日本のすみれ(出典:S002) 」を再読してみました。当時、浜氏はコミヤマスミレとニョイスミレの雑種の可能性を想定した訳ですが、一方は無茎種、他方は有茎種ですから節間交雑種ということになります。観察により、茎の様子が中間的であったことを根拠の一つと考えておられたようです。
実際、交雑種起源ではないかと考えられている種も多くあります。身近なスミレ属ではアリアケスミレがそうですが、交雑種が倍数体として稔性を得て固定したと理解すべきなのでしょう。学術用語では「異質倍数体形成」などと呼ばれています。アリアケスミレは染色体数が2n=72と際立っており、倍数体の可能性を示唆しています。さて、このヒョウガスミレはどうなのでしょうか。実は2年前から2n=24と表示していましたが、現在、情報ソースを確認できなくなりました。これでは継続して掲出できず、残念ですが「未確認」と修正しました。この情報があれば、浜氏の推察を指示できるか否か、感触を得られると思っています。
~コミヤマスミレ V. maximowicziana 近似のものだが、葉の色と光沢、毛が少ないことで区別される. 浜 栄助先生は現地で実物を観察され, ニョイスミレとコミヤマスミレの雑種 V. verecund X V. maximowicziana とされた(浜 1987)が, 筆者が花粉の稔性を調べたら90%以上の稔性率があった. コミヤマスミレの一型とみるべきであろう.
2011/02/06
前述の南谷先生のガイダンスを得て、自生地で開花株を観察することができました。一見した印象はコミヤマスミレです。あくまで「印象」です。
自生地は疎林の中の湿地であろうと想像していたのですが、まるで異なった環境で驚いてしまいました。水が常に滲み出す土地で、自生地を覆い隠すような樹木はないのですが、北北西向きであるため、太陽がしっかり差し込む時間帯は夕方の短い時間に限られます。自生地は2~3か所であったそうですが、現在は唯一か所に限定されてしまったとのことです。水の流れる環境が変わってしまったためと推測されると伺いましたが、状況より自生地に関する説明は、ここまでに留めることにします。
周辺を探してみましたが、ほんの一角だけに限定されているようです。その一角にはゼニゴケのような表面積の広い緑色の苔がはびこり、その隙間から突き出すように生えています。根元には、すみれ好きにはすぐに分かるすみれの芽がたくさん出ていました。稔性、発芽の能力を含む繁殖力そのものは旺盛と見られ、問題は山水が流れる環境変化にあるものと見るのが妥当と感じました。
採集された株を拝見しますと、太い根元から細かい根が多く出ています。また、側根が別の株と繋がっています。一方の小さい株は不定芽から出た新株だと分かりました。これは複数見られ、実生でも不定芽でも繁殖することができる能力を持っていることを示します。2011/04/08
少し困っているのですが、「写真集 日本のすみれ(出典:S002) (浜栄助氏)」や「増補改訂 日本のスミレ(出典:N005) (いがりまさし氏
)」に掲載されている写真と、観察してきた個体の姿には異なる点があります。書籍をお持ちの方は比較してみて下さい。簡単に判断できるのは花茎や葉脈の色です。前述の書籍では萼片も含めて緑色で、観察できた個体のように赤み(臙脂色)掛っていません。また、花びらの形状について、前述の書籍では細身で5枚の花びらがそれぞれ離れている状態が多いようですが、観察できた個体では比較すると幅があり、上弁と側弁が重なって横に出ている状態が多いようです。葉質が厚くて堅いという程ではなく、この点についても一致しません。
一方、各地で観察できたコミヤマスミレの特徴と大きな違いはありませんが、葉の裏面が緑色であり、葉の表面に見られる白い毛が比較的に少なく、若干の光沢があるという点は書籍の記載と一致しています(根本的に自生環境も異なりますが、詳細には記載できません)。これは、どうしたことでしょうか。
実は、このすみれの自生地は複数あったそうですが、その一部は水の流れる環境が変わったのか、自生を確認できなくなったと伺いました。考えられることは、書籍の個体は自生を確認できなくなった場所のもので、ほんの少し離れた位置にある今回の観察地と若干の差異があり、少しだけ違う型ということかも知れません。ただし、それが事実であれば、書籍に掲載されていた型の方は絶滅してしまった可能性すらあります。いずれにしても、再確認が必要だと思いました。2011/04/13
ヒュウガスミレとして観察できた個体はコミヤマスミレの特徴を強く持っており、どうしても浜栄助氏の「驚き」が納得できません。特に、葉の様子については『葉質が全く異なり、厚く堅く、がさがさしていて丈夫である。表面のクチクラ層も厚く、水にぬれると光る。』と説明されているのですが、観察した限り、関東などで見られるコミヤマスミレと大きな違いを感じられませんでした。因みに、関東に自生するコミヤマスミレには、葉の裏面が緑色をしているものも見られます。ただ、自生環境はかなり異なるのです。
すみれ仲間から、宮崎県にはコミヤマスミレが多く自生していると教えていただいており、本来はコミヤマスミレの自生地を訪ねるつもりでした。しかしながら、開花時期が3月下旬から4月中旬と伺い、両方を観察することは早々にあきらめざるを得ませんでした。機会を作って、また訪ねたいと思います。この地のコミヤマスミレを観察して比較できれば、何らかのヒントが得られるのではないかと期待したいところですね。
ヒュウガスミレはコミヤマスミレの型の一つではないかと想定していたのですが、コミヤマスミレの二つの型が狭いエリアに同時に存在したと考えるより、一方はヒュウガスミレで、他方はコミヤマスミレと考えた方が素直ではないかと思えます。すぐそばで同じ時期に花を咲かせていたニョイスミレは、当然、植物体全体が緑色です。元々、花の姿はそっくり。頭から消えかけていた浜氏の交雑種説が再浮上でしょうか(笑)。それなら、片親であるコミヤマスミレが昆虫の生活移動距離に自生している必要があるので、うまく辻褄が合って理解できる訳です。
しかしながら、一方は既に自生していないとの情報でした。栽培上手であれば、人工交配を考えるところでしょうが、異節間の交配を試してみるのは気おくれがします。今のところ、どちらであるとも確認することができず、「まぼろしのヒュウガスミレ」のままになってしまいました。2011/04/19
(2009/01/15) Latest Update 2024/08/06 [710KB]