アワガタケスミレ (粟ケ岳菫)
新潟県 2010年4月26日 alt.=200m
一面に、ほぼ鈍頭の光沢がある葉が拡がっていて、繁殖力が高いものと感じました
なんとか、花の痕跡が残っており、「距」が長いことが分かります
福島県(奥会津) 2024年5月16日 alt.=550-700m
分類 |
タチツボスミレ類(類推) |
学名 |
基本種 |
Viola awagatakensis T. Yamaz., I. Ito et Ageishi Published in: J. Jap. Bot.,72:60. (1997) |
変種 |
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品種 |
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異名 |
Viola rostrata Pursh var. crassifolia Hashimoto (1967) Published in: Violets of Japan: 135, photo 106 (1967) |
由来 |
awagatakensis : 粟ケ岳の |
外語一般名 |
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茎の形態 |
有茎種、花期に地上茎は短く、余り伸長しない。 |
生育環境 |
多雪地帯の山地。砂礫や岩場の斜面で見られると言われるが、実態として、そのようなケースは稀。一方、湿気の多い土壌に多いとも言われる(実際に見た自生地は乾き気味の斜面だった)。
福島県内の観察記録では崩壊地に多いとされている(2024年訪問、崩壊地というよりも、砂礫岩の山であった)。生育環境に関する記載に一定感がない。
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分布 |
国内 |
新潟県、山形県、福島県の山地に限定的に分布する。 |
海外 |
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補足 |
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花の特徴 |
形状 |
中輪。側弁の基部は無毛。形状でナガハシスミレとの区別は困難と言われる。 |
色 |
紫紅から淡紫色。 |
距 |
白く、極めて長い(10~30mm)。 |
花期 |
普通。 |
花柱 |
短い棒状。 |
芳香 |
(不詳) |
補足 |
花茎は赤味を帯びる。 |
葉の特徴 |
形状 |
小さい三角形。先端はナガハシスミレより丸め、基部は切型。 |
色 |
表面は光沢のある緑色。裏面は通常は紫色を帯びるが、越年葉は淡い緑色。 |
補足 |
無毛。茎が余り伸長しないためか、葉が地面にはばりついているイメージがある。托葉は櫛の歯状。 |
種の特徴 |
形状 |
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色 |
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補足 |
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根の特徴 |
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絶滅危惧情報 |
環境省【準絶滅危惧(NT)】 、新潟県:準絶滅危惧種、福島県:絶滅危惧Ⅱ類 |
基準標本 |
アワガタケスミレ : 新潟県南蒲原郡下田村 1984(東京大学収蔵)、伊藤至・上石貞夫(新潟県の植物研究家)によると推察 |
染色体数 |
2n=20 |
参考情報 |
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その他 |
花期にしか観察できておらず未確認だが、有茎種でありながら、余り茎が伸びないとの情報がある。 |
山崎敬氏が植物研究雑誌で、以下より独立種と判断して発表した。
【概要】アワガタケスミレViola rostrata var. crassifolia Hashimoto(裸名)
・葉はナガハシスミレ Viola rostrata よりテリハタチツボスミレ Viola faurieana に似る。
・テリハタチツボスミレより長い距 と、光沢のない小型の葉を持つ。
・砂礫地ではなく、岩上に生育する。
・葉の裏面に多数の透明な点があるなど、似た2種とは多くの相違点がある。
「THE JOURNAL OF JAPANESE BOTANY Vol.72 (1997年2月)」
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新潟県 2010年4月26日
東京都 2011年4月9日 植栽
昨年、自生地を訪ねる計画だったのですが、都合がつかなくなって、現在も未見のすみれです(編集時現在)。そこで、沖縄在住のすみれ好きさんにお願いをして、写真と情報を提供していただきました(「参考提供資料」をご覧下さい)。できるだけ早い時期に出かけて、情報を追加したいと思います。
2010/01/12
予定より2年遅れて、やっと自生地を訪ねることができました。ただ、今年は気温が低いようで、山の様子が春になりきっていません。開花時期にも頂上には雪が残ることが多いと聞いていましたが、それどころか、遠目には5合目の下まで雪が見えていました。でも、とても運が良いことに、当初の予定地より標高で100m低い自生地の情報を入手できたのです(実は、いがりさんから、手書きメモで教えていただきました。ラッキー!)。
目的地に辿り着きましたが、本当にこんな場所に自生しているのかと半信半疑で探し始めたのですが、すみれらしき葉の姿も見えません。目を凝らして、しっかり探し続けると不思議なことに見えてくるものです。連れもそれらしい小さな葉を見つけました。付近を捜すと、確かにテリハタチツボスミレを彷彿とさせる葉が幾つか見られ、やっと蕾を見つけて、少しほっとしました。なぜなら、蕾の距が明らかに長くて上向きに反っていたからです。
少し登ったり下りたりを繰り返してみたのですが、それ以上は見つかりません。自生地を確認できたから、「これで良しとするか」というような気持ちになりました。なにしろ、当初の目的地では姿も見られなかったことでしょう。それから、既に17時を過ぎていたのです。車に戻りかけて戻りきれず(笑)、あちこちと覗いて歩き、比較的乾いた斜面に目をやると、おや!、独特な葉を持つ大きめの株があります。かなり湿気の多い場所と聞いたのですが、そうばかりではないようです。では、もっと探索エリアを広げてみようと斜面を登ってみました。転々と葉が見えています。そして、目の前に白い花が現れました。かなり白くて距が渋い桃色ですから、少し距が長いオトメスミレ風な面持ちです。写真で見ていた花とは少し異なるようですね。最終的には相当数の花がありましたが、比較的狭い範囲のことでした。花にも出逢うことができて、やはり運が良かったのだろうと思っています。
2010/04/30
アワガタケスミレはナガハシスミレとテリハタチツボスミレの交雑種であり、稔性を持つことが多いタチツボスミレ近縁種間の交雑種を「いちいち独立種と認めていたらキリがない」ので認めないとの主張があります。一方で、幾つかの種を交雑種起源と説明している事実があり、それらも独立種と認めていないのであれば説明に一貫性や説得力が感じられますが、そうではなさそうでした。
自然科学の考え方では「キリがない」という類いの情緒的判断は排除されるのが一般的です。つまり、実態として妥当であれば、数え切れない程に同じことが発生しても構わないのであって、誰かが「これぐらいに留めておこう」と調整する類のものではありません。現状、数値基準がある訳ではありませんので、幾つかの意見が並立しても仕方がありませんが、その場合、少なくても『一貫性』は必要条件として維持されていないと困るでしょうね。
因みに、スミレ(マンジュリカ)でさえ、DNA解析によってノジスミレなどの交雑種起源であると判明したそうです。まぁ、こうした主張は判断基準外ではないでしょうか。
2011/12/29
改めて、橋本保氏の「日本のスミレ*(出典:N002)
」を取り出して、アワガタケスミレに関する記載を読み返してみました。
冒頭を抜粋しますと『新潟県粟ヶ岳の標高700mぐらいの礫地には(略)アワガタケスミレ(内川定七命名)V. r. var. crassifolia Hashimoto (106)があり、葉だけみるとちょうどテリハタチツボスミレのようです』とあり、ナガハシスミレからテリハタチツボスミレへの進化途中の形という推測を記述されました。
この記載(1967年)は正規の手順として扱われず、山崎敬氏による「植物研究雑誌*(出典:S003)」での発表(1997年)が学名として Publish される訳です。学名には内川氏も橋本氏も登場しません。微妙なものなのですね。(注:山崎氏は論文冒頭で橋本氏の件を紹介している)
2021/04/29
これまで橋本氏の著書による見解(1967年)と山崎敬氏の「植物研究雑誌」での発表(1997年)、更に交雑種説(例:Flora of Japan, 1999年)をそれぞれ取り上げておりました。
各々微妙に見解が異なりますが、橋本氏については先ず時代も異なります。比較的時代が近い二つの見解ですが、決定的な違いは一方は「見た目」による判断であり、他方はDNA解析も踏まえた見解であることでしょう。また、古典的な標本に基づく判断と、自生地情報(時勢環境、生活型など)も加味した判断との違いという側面もありますね。
フチゲオオバキスミレのケースも同様ですが、最低限、自生地観察というステップは省略できないと思っています。
2021/04/29