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詩、句、歌、詞、言

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サイドストーリー (つぶやきの棚 こぼれ話) 2003/11/19
 小さな春の花に過ぎないすみれが、少しだけ人々の心を揺り動かした記憶が言葉となって残っています。
 松尾芭蕉が「野ざらし紀行」で詠んだ俳句のなかでも「山路来てなにやら床し菫草」は有名です。 アイヌタチツボスミレ  1684(天和4)年に詠まれたこの俳句は、特別に強い印象を与える言葉はないのに、どうした訳か、記憶に残ります。
 芭蕉が目を留めた「床しいすみれ」とは、果たして、どんなすみれだったのでしょうか。この点に興味を抱いた植物写真家の青山富士夫氏が、芭蕉の足跡を尋ね歩いたエピソードがあります。「野草431号(1989年)」の記載によりますと、この句が詠まれた時季に、京都伏見から近江大津まで山路(逢坂関付近)を歩いた結果として、それはタチツボスミレであるとしたのだそうです。因みに、実際に詠んだのは白鳥山法持寺とされており、それは愛知県名古屋市にあります。
 さて、万葉集の和歌から俳句、近年のポップスの歌詞まで、記憶を探って手当たり次第に並べてみました。
和歌 春の野に・・・ 山部赤人 春の野に菫摘むにと来しわれそ 野をなつかしみ一夜寝にける (万葉集)
和歌 山吹の・・・ 高田女王 山吹の咲きたる野辺のつほすみれ この春の雨に盛りなりけり (万葉集)
和歌 箱根山・・・ 大江匡房 箱根山薄紫のつぼすみれ 二しほ三しほたれか染めけん (堀河百首)
俳句 山路来て・・・ 松尾芭蕉 山路来てなにやら床し菫草 (野ざらし紀行)
俳句 野の菫・・・ 小林一茶 野の菫あの家なくもあれかしな (文化句帖)
歌詞 すみれ色の涙 万里村ゆき子 演:ジャッキー吉川&ブルーコメッツ、岩崎宏美
歌詞 Sumiregusa R・ライアン 演:Enya(アイルランドの女性ミュージシャン、プロジェクト)
春野尓 須美礼採尓等 来師吾曽 野乎奈都可之美 一夜宿二来(原文)

 万葉集のなかでも山部赤人の歌はとても有名です。
 普通に解釈すれば『すみれを摘みに春の野に来た私は、野が離れがたくなって一晩を明かしてしまった』、『春の野に、すみれを摘もうと思ってやって来た私は、その野の美しさに心引かれて、つい一夜を明かしてしまった(伊藤博)』ということでしょう。でも、有名なためか、多くの解釈があるようです。

アイヌタチツボスミレ  すみれを摘むと言っても、切り花として飾るつもりではないでしょう。山菜としてすみれ摘みを行うことを指していたのかも知れません。ただし、作者は万葉貴族ですよね。当時、山菜摘みなどは下女の仕事。もう少し優雅な貴族の遊びであるか、全く別の意味に理解している方も多いようです。
 学生の頃、この歌を「恋の歌」とする解釈を読んだことがありました。ギリシャ神話のゼウスとイオの逸話を持ち出すまでもなく、すみれは美しい女性に喩えられてきました。この『須美礼』を女性の比喩としてと置き換えるだけで、恋の歌として成立しそうです。源氏物語の世界ですね。

 万葉集にはすみれをモチーフとした和歌が幾つか有るのだそうですが、2つしか記憶にありません。俳句はたくさんありそうですが、思い出そうとすると余り出てこないものです。

 ポップスなら「すみれ色の涙」、「すみれ September Love」もありました。ちょっと話が古い点はご容赦いただきたいのですが、(SHAZNAよりも)一風堂のインパクトに唖然。宝塚的な化粧の男性ボーカルにはビックリさせられました。それから、化粧品のCMに登場したブルック・シールズが印象的(笑)。CMのコピーは『ブルックのすみれ色コレクション』だったらしいです。
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