戻る→ ←戻る ニオイタチツボスミレ 進む→ 進む→

 ビデオカメラを持ち出して、動画記録を始めたばかりの頃、映像ディレクターを生業としている旧友を高尾山まで引っ張り出して、すみれが如何に可憐な植物であるかを切々と訴えて、無償で撮影ノウハウを教えてもらう作戦に出たことがありました。その年、花期が少し遅くて、その上、春早くから出かけたものですから、なかなかビデオ映えするようなすみれたちに出逢うことができませんでした。そこに、頂上から降りて来た同年代の男性が声を掛けてきました。

 「何を撮影するんですか?」、「すみれなんです」、「でしたら、もう少し上の方に綺麗な花がありましたよ」。
 「えっ、何すみれでした?」と、出逢ったばかりの方に、ついつい、いつもの癖で質問してしまったのです。
 「…ニオイタチツボスミレでしたね!」と。

 ほんの一瞬戸惑いながらも明確に応えて、笑って去って行く後ろ姿に、残された二人は顔を見合わせて(さすが高尾山)と内心驚いたものでした。
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