タチスミレ (立菫)
茨城県 2011年6月4日
栃木県 2007年5月18日 alt.=16m
茨城県 2011年6月4日 alt.=10m
分類 |
ニョイスミレ類 |
学名 |
基本種 |
タチスミレ Viola raddeana Regel Published in Bull. Soc. Imp. Naturalistes Moscou 34(1): 463, 501 (1861) |
変種 |
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品種 |
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異名 |
Viola deltoidea Yatabe Published in Bot. Mag. (Tokyo) 5(56): 318-319 (1891)
Viola raddeana var. japonica Makino Published in Bot. Mag. (Tokyo) 6(60): 50. (1892)
Viola thibauderi Boissieu
Viola thibaudieri Boissieu
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由来 |
raddeana : 人名に由来 G. F. R. J. von Radde, 1831-1903 ドイツ自然科学者 |
外語一般名 |
【中】立菫菜、【韓】선제비꽃 |
茎の形態 |
有茎種 |
生育環境 |
河川が氾濫しやすい平坦で陽当たりの良いヨシ等が生育する湿った草原、河畔林。 |
分布 |
国内 |
関東の利根川水系、九州の一部(くじゅう、霧島山系等)、局地的で限られている。 |
海外 |
朝鮮、中国東北部、アムール、ウスリー地方に分布。 |
補足 |
大陸系遺存植物。 |
花の特徴 |
形状 |
小輪(1cm程度)。側弁の基部に毛がある。 |
色 |
白または淡紫色の唇弁に紅紫条が入る。 |
距 |
極めて短い(1mm程度)。 |
花期 |
遅い。花期は極めて長い(5月~6月)。 |
花柱 |
カマキリ型に近い。 |
芳香 |
香りがあるとする資料がある(未確認)。 |
補足 |
萼片が細長い。上部の葉腋に花を一つずつ付ける。 |
葉の特徴 |
形状 |
長い披針形から長矛形。葉身も葉柄もかなり長い。 |
色 |
両面とも緑色。 |
補足 |
無毛。葉は互生する。花後、草丈は更に伸びて1mを超えることがある。托葉は大きくて長く、低い鋸歯がある。 |
種の特徴 |
形状 |
極小粒。涙滴形(膨らんだ楕円形)。 |
色 |
灰褐色。 |
補足 |
植物体の大きさから想像できないほどに小さい。 |
根の特徴 |
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絶滅危惧情報 |
環境省【絶滅危惧II類(VU)】 、宮城県:絶滅、栃木県:絶滅危惧Ⅰ類、茨城県:絶滅危惧Ⅰ類、群馬県:絶滅危惧Ⅰ類、埼玉県:絶滅危惧Ⅰ類、千葉県:絶滅危惧Ⅰ類、東京都:絶滅、大分県:絶滅危惧Ⅰ類、鹿児島県:絶滅危惧Ⅰ類 |
基準標本 |
中国黒竜江省(ロシアとの国境に近いアムール川流域)[Royal Botanic Gardens KewにIsotype所蔵] |
染色体数 |
2n=24 (LEE, Y. N., 1967, Chromosome Numbers of flowering plants in Korea. J. Korean Res. Inst. Ewha Women's Univ.) |
参考情報 |
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その他 |
茎は長く伸びるがひょろひょろで自立できない。太い茎を持つタデスミレとは異質。
花期は長く、6月までは開放花を付け、その後、秋口まで閉鎖花をつける。発芽率が高く、発芽までの時間が短いとされる。
群馬県では絶滅したとの情報もあるが、県単位としては自生が記録されている。常総市指定文化財(第58号)。
別名:チョウセンタチスミレ(朝鮮立菫)。
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栃木県 2006年5月21日 |
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立ち上がった茎は約20cm程度
でも、これから更に伸びるというのです
その頃はヨシなどの支えで立つことになるのですね
植物全体に比べて花は小さめです
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栃木県 2006年5月21日 |
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栃木県 2006年6月1日 |
右の写真は栽培されているものです
でも、実際の環境に似せてあるのだそうです
キノコはご愛敬として、
成育中の様子が良くわかりますね
↓ 花弁に紫色の強い個体も見られます
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茨城県(筑波実験植物園) 2006年4月15日 |
栃木県 2007年5月18日 (写真右の右側に写っているのはハナムグラ、絶滅危惧IB類)
栃木県 2007年6月3日 (実生株が増えるには、地表に太陽光が届くことが重要)
茨城県 2011年1月23日
河川敷きの葦原や湿った草原に生育する変わったすみれですが、アシ(ヨシ)やオギを野焼きして陽光を確保する必要があり、保護するために人の手が入るという不思議な現象が始まりました。成果は芳しく、絶滅危惧種ながら、株数を大幅に増やしています。これは阿蘇のキスミレの例に良く似ています。
2005/06/05
小幡和男氏 「タチスミレ群落における火入れの効果」より抜粋
筆者はタチスミレ群落の復元を試み、2003年と2004年の1月に群落の火入れを実施した。火入れの効果をみるために16×8mの枠を設置し、2003年と2004年の4月末に、タチスミレの当年生実生を除く全ての個体について位置と株の直径を測定した。結果は2003年4月の147個体/128m2から,7,171個体/128m2へと密度が約50倍増加した。
さらに,火入れによるタチスミレの発芽促進の要因を明らかにするために、近傍のタチスミレの生育しないオギ群落に、2004年1月、タチスミレの種子を播種した。処理区は(a)播種後火入れ、(b)火入れ後播種、(c)火入れせず播種リター除去、(d)火入れせず播種リター戻し、とした。結果は、(d)を除く全ての処理区でタチスミレの発芽をみた。火入れは発芽にとって必須条件ではなく、リターを取り除くことが重要であることが分かった。
注:小幡和男氏(ミュージアムパーク茨城県自然博物館主席学芸員) 2005/06/05
タチスミレが生育を続けることができる環境は限られており、沼地等、湿地や草原自体の減少が進み、河川の護岸整備等の行為が生育地を更に奪っていく状況を変えることができなかった訳です。特に、護岸工事は自然破壊と紙一重であり、必要性と開発方法、費用のバランスについては疑問が残るケースも多いと聞きます。しかしながら、洪水、鉄砲水等による被害を防止するという目的を全面に出されたら、簡単に反対することはできません。近年、万難を排する努力によって、生育地の維持が進んでいます。また、九州のキスミレと同様に、人為的な働きかけが必要です。具体的には、ヨシ原の人為的撹乱としての野焼きおよび関連する諸活動が、ボランテイアによって継続的に大規模に行われていますが、簡単なことではなかっただろうと、容易に想像できますね。
2006/05/24
自生地を3週間連続して訪ねてみました。最初に訪ねた時点で既にたくさん咲いていましたが、驚いたのは3週目にもたくさん咲いていたことです。変化と言えば果実が見られるようになったことでしょう。ただ、まだ膨らみ始めたばかりです。決して近い場所ではないので、これ以上通うのはなかなか難しいのですが、この3週間の前後に更に1週間ずつは花が見られるものと推測して良いと思います。すると、通算1ケ月間の花期ということになりますね。
2007/06/10
4度目の訪問をしてみました。目的は1mに達するという草丈を確認したかったのですが、想像に反して、開花株が増えていました。今年は入梅が遅れて、真夏日が続いていましたが、元気いっぱいです。通算1ケ月間の花期という前言を撤回して、通算2ケ月間は確実な線です。驚きますね。
2007/06/22
いつまで花は咲いているのか、花期の終わりにはどれだけの草丈になっているのか、気になる事項があって7月に出掛けてみることにしました。予報では高かった降水確率にも関わらず、運良く雨に降られず、その上、自生地の地面は歩くことができる状態です。2mに達している葦を掻き分けて奥へ入って行くと、とても多くの株を見ることができました。草丈ですが、大きい株で90cm程度です。でも、背の低い株の方が遥かに多いですね。そして、探し回ってやっと二つの花をみることができました。
壁のように視界を遮る葦で視界1m以下です。周囲にも花を咲かせている株があったかも知れませんが、鋭い刃物のような葉から保護するために着込んだウィンドブレーカーが暑く、空模様も怪しくなってきましたので、30分程度頑張って退散しました。まぁ、6月末までは花を咲かせていて、気合いの入った株は(笑)7月の初旬にも例外的に花を咲かせるというのが結論でした。
2008/07/06
資料によっては、タチスミレが北海道に自生していると記載されています。ただし、それが九州発の野草に関する書籍だったりしますので、他のもっと古い書籍に記載されているのだろうと推測しています。胆振支庁で記録があるそうですが、定かではありません。北海道のすみれに詳しい五十嵐博氏は、その記録を知りながら、自身がまとめられた自生種リストには記載していません。室蘭-白老-苫小牧ラインを少しだけ歩いてみたのですが、確かにタチスミレがひょいと自生していそうな雰囲気はありました。
2011/11/18
五十嵐博氏による「北方山草」の記述によると、北海道に記録があるが、「小樽博物館の標本を確認したところシロバナスミレであり道内には分布しないことが確認された」として、誤認説の立場をとっています。
2018/09/02
- 茎生葉と直角にクロスしているのは細長い托葉です
- こちらの托葉は大きくて、基部の粗い鋸歯が目立ちます
- 既に開放花由来の果実が大きく膨らんでいました
- 同日、他の株では小さな閉鎖花が伸び出しています
茨城県 2013年6月23日
週末に雑多なスケジュールが入りやすい時期なので、なかなか出掛けることができません。その以前は雨天で湿地に出掛けるのは難しいところでした。やっと、無理に訪ねてみたのですが、残念ながら、果実ばかりになっていました。長い時間、葦をかき分けかき分け、獣のように歩き回ってみましたが、やっと花だった痕跡を見つけた程度で開放花を見ることはできませんでした。代わりに、これから花を開かずに果実になる閉鎖花を観察することができました。今回は、花よりも托葉の変化を多く観察したかも知れません(笑)。
2013/06/24