タチツボスミレは変化が多く、白花で距に淡紫色が残っているものをオトメスミレ、距も白いものをシロバナタチツボスミレと呼んでいます。シロバナタチツボスミレは比較的個体数が多いようです。
タチツボスミレ(白花)とか、タチツボスミレ=オトメ型と呼ぶ方が適切だという表現上の提案もあります。同意できる部分もあるのですが、言葉というものは、どれだけ普遍性があるか、つまり普及していれば、それが正しいという面があります。一応、品種として長く扱われてきましたので、誤解になるようなことはないでしょうね。2001/05/19
白花などと呼ばれる植物たちは、学術的には「アルビノ」ではなくて「白花変種(または白変種)」と呼ぶべきものです。ただ、この「変種」という言葉は誤解に繋がりやすそうなので先に補足しておきますが、「品種(f.: forma)」や「変種(var.: variant)」という分類上の用語とは直接関係がありません。「白花変種」という一つの言葉だと理解しましょう。原則として、花弁は紫条などが入らない純白で、植物体全体についても赤斑などが入らない青軸が多くなります(注:絶対ではありません)。
このように色素をコントロールする遺伝子が生物全般に予め組み込まれていると言われています。北極ギツネやシロクマのような動物の場合を想像してみて下さい。この遺伝子が白銀の環境で活性化して発現すれば、保護色として優性に働くということなのでしょう。2008/01/29
白花変種の発生メカニズムを突然変異と説明してしまう場合があります。ただ、前述の通り、色素をコントロールする遺伝子が生物全般に予め組み込まれ、環境の変化などの刺激によって活性化されるものを突然変異と呼んで良いのか、微妙なところです。活性化した個体の子孫は同じ形質を維持することもあり、そうでない場合もあります。また、部位や程度も絶対的ではありません。ですから、純白にならないことも稀にはあるということですね(ただし、極端な例です)。
シロバナタチツボスミレは「完全に純白の花を咲かせるものだけを呼ぶ」との説明を実際に聞いたことがあります。そうでなければ「区別が困難である」という境界線に関する考え方がベースになっている訳ですが、残念ながら、歴史的な植物の命名や分類に関するルールは、万人を納得させようという発想で構成されている訳ではありません。基準標本がどのような状態であるか、また、どのように記載されたか、それが一定の様式と検討をクリアして、著名な学会誌に投稿されたというような様式美の世界で決まっています。ただ、それを批判をする意思はなくて、過去の状況から見れば、それなりの妥当性があったのだろうと思うのです。
逆に全くの個人見解を長い時間を掛けて多くの人に、あたかも事実であるかのごとくに教えてしまう行為も見られます。なにしろ、学会誌等の舞台では発表されませんから、それらの個人見解が、どこからも誰からも無批判で一般世間に浸透してしまう可能性があります。こんなことがあちこちで行われたら、植物分類学はめちゃくちゃになってしまいますね。
似たような話ですが、「それは過去の分類で、現在は採用されていない」といった類の話は、一度疑って掛った方が良いかも知れません。なにしろ、「誰が」採用したり採用しなかったりするのか、「主語」についての説明はないのです(聞いたことがあるでしょうか)。ISOやJASのような検討能力を持つ統一母体が存在すれば良いのですが(笑)。いつかは基準が変わるかも知れませんが、現状のちょっとカッタルイ手順が、極端な見解を淘汰するメカニズムになっているのだろうと思います。
どちらにしても、自然科学の世界は「事実」を積み重ねるのであって、誰か特定個人の「意志」で採用したり採用しなかったり、増えたり減ったりするという理解は、原則として間違った認識です。2009/09/30
(2001/05/19) Latest Update 2024/08/06 [235KB]