外来種として扱っていますが、和名があるところが厄介の始まりですね。おそらく、ケイジョウスミレ等と同様に、大戦当時、日本の領土としていた地域に自生しているのかも知れません。その和名がシロコスミレですから、「白小菫」と書くものと推測されるところが更に厄介です。コスミレとは全く関係がありません。コスミレにも白花があり、これを巷ではシロコスミレとかシロバナコスミレと呼ぶケースがあります。それから、幅のある白っぽいコスミレをシロバナツクシコスミレと呼び、Viola japonica f. albida として登録してしまったので混乱している方も多いと思います。
さて、最も大きな問題は、戦前から日本に持ち込まれていて、強健なので量産も容易だろうと思われるシロコスミレを、勝手なカタログネームで流通させた業者がいることです。当初、シロコスミレを片親とする交雑種が商品化されたのかと思いました。それなら、園芸品種名を付けて販売しても構わないでしょうが、そうではなさそうです。この行為、法には触れないかも知れませんが、お行儀が悪くて業界の片隅にも置けませんね。
長崎県対馬に自生していると言われます。実は、自生品の写真を何度か見せていただきました。以前は自生していたが見られなくなり、今、自生しているものは流通品の末裔だという説もあります。でも、地元の植物に詳しい方々は自然に自生していると考えています。調べる方法はあるでしょうね。今のところ、自然に自生しているという説を採用しています。朝鮮半島南部には自生している訳ですが、対馬は韓国が見える位置にある島なのです(実際に見てきました)。2007/05/31
果実が幾つかできましたので、熟すのを待って採り播きをしてみましたところ、発芽率抜群で驚いています。一般的な実生からの量産が容易であることを検証した形になりました。2007/07/07
日本すみれ図譜(井波一雄氏著)によると、中井猛之進氏が中国産シロコスミレの研究発表後、橋下保氏により国内分布について研究が行われ、北海道(余市)、中国(松江)および九州(福岡?)に点在稀産すると記述されています。これは、近年の認識とは違いがありますね。更に『~日本の産はすべて日本海に面した港に近いことから、対岸朝鮮あたりからのコボレ種子による逸出かとも解しておられる』と補足されています。2007/07/07
やっと、植物学雑誌(Bot. Mag. 28:(336)329)のコピーを入手しました。見つからなかった理由は(28:329)とする資料を先に見ており、別口を探していたためでした(笑)。正解は28巻336号329頁だった訳です。「他山の石」、「反面教師」としたいところですね。
調べていたのは基準標本の産地を確認したかったためでした。ところが、この論文はラテン語のようで、ほぼ読めません(注)。どうにか判読できる部分として、"in Corea"と"in China"が登場します。翻訳ソフトで全体の解読を試みましたが、用語の省略が多い上、固有名詞なのか略称なのか、まるで暗号のようで解読不能という始末でした。
自分なりの理解ですが、中井博士の別の論文(日本語)によると、1913年(大正2年)に朝鮮半島南部を調査して「余ハ昨年南朝鮮ヲ旅行シテ多クノ新植物ヲ得タレバ、~」として、この内の56種をドイツの雑誌に掲載する段取りであった旨が記載されています。基準標本の産地は、推測ながら、朝鮮半島南部の可能性が高いとみています。
(注:この時代、論文の第一言語はラテン語でした。特に、植物の新種報告は長くラテン語限定だったそうです。現在の第一言語は英語。数理解析等、一部の分野でフランス語、ロシア語が使用される傾向があるとのことです。尚、学名表現では、現在でもラテン語が使用されています。)2020/04/17
環境省自然環境局野生生物課の『植物Ⅰ(維管束植物)(2010年)』にシロコスミレに関する記載がありました。CR(絶滅危惧IA類)[新規掲載]と判定した理由について、「対馬の2か所に自生地があったが、1か所は消滅。もう1か所は現状不明。現存している可能性を考慮した。」と記載されていました。そんな状況だったのですね。
ただ、少し残念な表現もあったのです。形態について「コスミレ(V. japonica)とシロスミレ(V. patrini)の中間的な形態を有するが、~(略)」とありましたが、これは余計でした。その2種の交雑種ではありません。2021/09/01
前述の中井猛之進氏が大正末期に記した「すみれ雑記(其二、抜粋)」を掲載しておきます。大正期の資料なので、権利上の問題ないでしょう。2022/08/01
(2007/05/31) Latest Update 2024/12/25 [700KB]