ひと通り花が終わった初夏、ヴィオラ・オドラータが大きくて丸い小豆色の果実を付けました。日本産の一般的なすみれならば、程なく果実が上を向いて、パチっと音を立てながら裂開する力で種子を周囲に飛ばします。ところが、そのようなパターンを取らない種もあるのです。
写真のヴィオラ・オドラータやアオイスミレの仲間などは、果実が膨らんでから完熟するまでに意外な程の時間を要します。上を向くどころか、地面に横たわるような状態になった頃、どこからともなく、蟻たちがやって来て、やっと開き始めた果実の割れ目から種子を引っ張り出そうとするのです。数匹で群がって、ついに持ち出しに成功すると、せっせと巣穴に運んでいきます。タンポポのように風に綿毛を載せて遠くに種子を運ぶ方法を風散布と呼びます。鳥散布、水散布もありますが、ヴィオラ・オドラータのケースは蟻散布と呼ばれます。