キスミレ (黄菫) [別名:イチゲスミレ(一花菫)、イチゲキスミレ(一花黄菫)]
キスミレ
阿蘇くじゅう国立公園 2009年 4月15日 alt.=820m

キスミレ キスミレ
キスミレ
阿蘇くじゅう国立公園 2009年 4月16日 alt.=780m
キスミレ キスミレ
阿蘇くじゅう国立公園 2006年 4月19日
 やっと、野焼き後の阿蘇くじゅう国立公園を訪ねることができました。7年前に聞いた「一面に咲く」という言葉は全くその通りでした。いったい、どれだけの株数があるのか、さすがに唖然としてしまいました。
2006/04/26

分類 キスミレ類
学名 基本種 キスミレ Viola orientalis (Maxim.) W. Becker Published in: B. A. Fedchenko, Fl. Asiat. Ross. 8:95. (1915)
変種
品種
ウスギキスミレ : Viola orientalis f. pallida Hatusima, f. nov.
ノコギリバキスミレ : Viola orientalis f. laciniata (Taken.) F.Maek.
ヤエキスミレ : Viola orientalis f. plena Hatusima, f. nov.
異名
Viola uniflora L. var. orientalis Maxim., 1915
Viola conferta (W. Becker) Nakai
Viola orientalis var. conferta W. Becker
Viola xanthopetala Nakai B. M. T. 36: 29 (1922)
由来 orientalis : 東方の、東部の
外語一般名 【中】东方堇菜、【韓】노랑제비꽃、【英】Golden violet
茎の形態 有茎種
生育環境 夏は笹やススキなどで覆われる山地の明るくて少し乾燥した草地、林縁を好む。
阿蘇くじゅう国立公園の山々では野焼き後、黒ボク土の山一面に群生する。
分布 国内 富士山周辺、広島、四国、九州など、火山帯を中心に点在する。
海外 沿海州(ロシア)、中国東北部、台湾、朝鮮半島。
補足
花の特徴 形状 中輪で腋出する。花弁は丸く、唇弁が他に比べ小さい。側弁基部は有毛(黄色い突起毛)。
山吹色と呼びたいような濃い黄色。花びらの裏面は臙脂色(海老茶色)を帯びる。
極めて短い。
花期 普通。
花柱 白い(または透明の)毛がある。花びらを開かないと見えない。
芳香
補足 小国町(熊本)、九重町(大分)で八重咲きが発見されている。萼片の付属体が比較的に大きい。
葉の特徴 形状 葉は厚め。先の尖った三角、基部は心形。茎生葉は少し細長く、上方に3枚付ける。その内、2枚は葉柄が短く対生に近い状態で付き、残りの1枚はやや下に付く。根生葉より幅がある。
根生葉は波状の鋸歯が見られる。托葉広めの卵型で全縁。先が尖る。
濃い緑色。裏面は紫色を帯びることが多い。
補足 両面に微毛がある。花期には基部の両端が表側に巻いていることがある。
種の特徴 形状 中大粒。防滴形。
淡い茶褐色。
補足 果実は無毛。
根の特徴 白くて太く長い。茎と接する付近で少し細くなるような形状の多肉質。蛸足状(出典:G002) 。水平に拡がる。
絶滅危惧情報 RDB環境省編2000年版まで絶滅危惧II類で掲載、2007年見直し版で指定外に変更。
山梨県:絶滅危惧Ⅰ類、静岡県:絶滅危惧Ⅱ類、愛知県:絶滅危惧Ⅰ類、広島県:絶滅危惧Ⅰ類、愛媛県:絶滅危惧Ⅰ類、高知県:絶滅危惧Ⅰ類、大分県:準絶滅危惧種、熊本県:準絶滅危惧種 、鹿児島県:絶滅危惧Ⅰ類
大分、熊本両県の指定については絶滅を危惧する意味が分からない。情報としては、大分県で野焼きを中止した地区のキスミレが絶滅した例が報告されている。
基準標本
染色体数 2n=12
参考情報 キスミレ (Viola orientalis) の生育環境特性 松本 雅道、田金 秀一郎(九州大学)
その他 別名「イチゲスミレ」または「イチゲキスミレ」という。【以下の 補 足 参照】
野焼き後の3月末に芽吹き、開花結実後、夏に地上部は消失して休眠状態に入る。
茎は赤みを帯びる。根茎は極めて短い。
中国大陸から南下した大陸系遺存植物とされている(「満鮮要素」植物群)。暑さには極めて弱い。

補 足

 キスミレの別名として「イチゲスミレ」が知られています。これは「一花菫」ですから、一茎一花というような意味になるのでしょう。でも、キスミレは一茎一花ではありませんよね。この辺がよく理解できず、素直に入ってきませんでした。
 最近、北隆館の「牧野新日本植物図鑑」を読み直していて、そのナゾが解けました。『かつて、シベリア産の V. uniflora L. と誤認されたためできた直訳名である』と明快に説明されていました。なるほど、uni-flora なら一花なのでしょうね。しかしながら、いつの頃の話なのか分かりませんが、植物の学名が直訳されて一般に普及するものなのでしょうか(笑)。 2014/12/12

キスミレ
東京都 2006年4月3日 植栽
 後方にタイトルを背負って登場していますので、敢えて説明の必要もないのですが、九州の「阿蘇」というより、「九重連山」の一角で見つけられたという八重咲きのキスミレです。「阿蘇」とだけ書いてしまうと熊本県と勘違いしそうですが、九重は大分県になります。阿蘇くじゅう国立公園内で見出されたと幅のある理解が必要なのでしょうか(笑)。
 園芸雑誌や通販で販売されているのをよく見掛けます。育てたことはありませんので未確認ですが、説明によりますと開放花からの果実は(当然)できませんが、閉鎖花HELP!もできないとされています。それはどうしてなのか分かりませんが、結果として栄養繁殖のみということになるのでしょうね。
2012/05/22

補 足

 「すみれNews(すみれ研究会版)」によりますと、太い根を地下茎から剥がして根伏せする方法で、規模の大きい北海道の業者さんが流通させることにより、流通価格が安くなっているとのことです。
 近年、確かに「ひゃあ、高いなぁ~」という価格帯は珍しくなり、2,000円台を経て、主要なネット園芸店では1,200円、ついに1,050円という価格帯も登場していました。園芸流通には適しているのでしょうね。 2019/07/07


キスミレ キスミレ
山梨県南津留郡 2002年4月27日
キスミレ キスミレ
山梨県南津留郡 2001年5月5日
キスミレ キスミレ
千葉県 1998年4月11日 栽培 千葉県 2001年4月8日 栽培
キスミレ キスミレ
千葉県 2001年4月1日 栽培

 山野草園芸店で『阿蘇キスミレ』という札がついて販売されていました。阿蘇で採集したキスミレという意味だと思われますが、この札はいけませんね。阿蘇で地元の方に尋ねたところ、「裏山一面に咲くよ」とのことでした。阿蘇の野焼き(山焼き)は、実はキスミレにとって大事なことで、木が生い茂る展開した山では生育が難しいとのことです。これは他の山野草についても言えることで、近年は手間の掛かる山の維持が難しくなっているとのことで、『阿蘇の野の花』で紹介された花達は年々消えていることが分かっています。一般に、人間の手が入るから消えていく自然とは逆の現象です。残念な話ですが、仕方のないことなのかも知れません。
1999/09/02

 夏前には地上部分が枯れてしまいます。栽培をするには比較的難しい種で、翌年、2鉢の内、1鉢は芽が出ませんでした。
 芽の出方はかなり変わっています。ひょろりとした風情で土の中からにじり出て、幾つかの花茎に分かれて行く・・・双葉が出て本葉が出てという流れは全く無視しているらしいのです。
2001/04/01

 阿蘇の山々を覆うように咲くキスミレたちの中には、時折、八重咲き等の変わり種が見つかるそうです。それを殖やして販売しているのを見掛けました。その善し悪しは別として、野山では数え切れない程の株が咲くのですが、ヒトが育てようとすると比較的難しいのです。それを一般流通させるのですから、プロの育苗業者はすごい技を持っているようです。
2008/02/01

 キスミレは栽培する上では気難しい部類に入りますが、栽培の上手な方々により、播種や植え替えのポイントをおさえた継代栽培が実践されています。また、植物は栽培されて代を重ねることによって、栽培されている環境に馴れる「馴化」が知られています。この気難しい種をどうしても手元で育てたいという頑固な方がいらっしゃるのですが、決して山採りなどをせず、栽培経験を積んだ上で、馴化品を入手して育てるのが理に適っているということですね。
2010/01/05


キスミレ キスミレ
静岡県富士宮市 2001年5月5日
キスミレ キスミレ
静岡県富士宮市 2006年4月17日
キスミレ キスミレ
キスミレ キスミレ
キスミレ
静岡県富士宮市 2011年4月24日
 苦節ウン年(^^;)。ようやく自然の中でキスミレに出逢うことができました。何しろ「あるところにはある」を実感!富士山の周り3ケ所で見られ、これまでアチコチ走りまわったのがウソのようでした。
2001/05/19


キスミレ キスミレ
キスミレ キスミレ
静岡県焼津市 2012年 4月24日
 十年程度前になりますが、キスミレを訪ねて「東限の山」と呼ばれる地を訪ねたことがあります。相当近いところまで迫ったはずですが、探し当てることができませんでした。当時は個体数が減っていたそうですが、最近の情報では復活の傾向を見せていると聞きます。問題は東限かどうか!ですが、なにしろ富士山周辺で多く見ることができますから、その地より東に自生していることは明らかです。しかしながら、現在でも「東限の山」として紹介されているのが不思議な現象ですね。
2010/09/22

 昨年のことですが、その俗に「東限の山」として紹介されている自生地をやっと探し出しました。勿論、東限ではありません。見つけ出すのは少し苦労しましたが、それで良いのだと思っています。咲き始めたという情報を得てから既に一ヶ月近く経過しており、花期が長くて助かりました(笑)。ここは有志たちが草刈りをして維持している空間です。多かれ少なかれ、人間の関わりで維持されている自生地ばかりというのは不思議なことですね。
2013/10/27


 キスミレは氷河期の寒冷な気候下で中国大陸から移入して、氷河期の終焉とともに山地の限られた環境に遺存した大陸系遺存植物と考えられています。分布域から「満朝要素の植物」という表現があるそうです。
 最近は冬でも地上部が枯れない種が見られますが、キスミレを継続的に観察すると、完全なスプリング・エフェメラル、すなわち、「春植物」としての性質が見られます。阿蘇地区の場合、3月末の野焼き後に発芽、4月に開花、5月までには朔果HELP!を形成して種子散布を終えますが、この頃にはススキが草丈を伸ばしており、地面の受光量は極端に少なくなっている訳です。夏場には、地上部が消失して地下で休眠する生活を営んでいる多年草です。
 主にキスミレが生育するのは火山性(時に非火山性)の黒ボク土という特異な土壌で、通気性や排水性、一定の保水性等はとても優れた土壌なのですが、活性アルミニウム等の組成成分がリン酸を吸着する性質があり、植物への吸収を妨げるため、結果としてリン酸欠乏になるのだそうです。生育できれば優勢を保つことができる訳ですね。
2008/06/25


(つぶやきの棚)徒然草

 (1999/09/22) Latest Update 2022/03/28 [1,100KB]

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