ヒカゲスミレ (日陰菫) [別名:エゾコスミレ(稀)、シンスミレ(稀)]
北海道函館市 2010年5月10日 alt.=138m
基準標本の産地である函館で、ほんわかしたイメージのヒカゲスミレに出逢いました。きりっとした白とは異なる、ソフトな乳白色の花を咲かせていたのです。葉の方は綺麗な緑色がほとんどですが、時折、表面に茶褐色が滲むように出ている個体もあります。魅力的な自生地でした。
2010/05/16
北海道函館市 2010年5月10日 alt.=130-180m 裏面が赤紫色を帯びる
北海道函館市 2010年5月10日
分類 |
ミヤマスミレ類 |
学名 |
基本種 |
ヒカゲスミレ Viola yezoensis Maxim. Published in: Bull. Acad. Imp. Sci. Saint-Petersbourg 23: 325 (1877) |
変種 |
アソヒカゲスミレ Viola yezoensis var. asoana E.Hama Published in: E. Hama. In: J. Jap. Bot., 51(11): 341. (1976) |
品種 |
タカオスミレ Viola yezoensis f. discolor (Nakai) Hiyama ex F.Maek. Published in: H.Hara, ESJ 3: 223 (1954) |
異名 |
Viola biacuta W.Becker Published in: Beih. Bot. Centralbl. 34(2): 414. (1917)
Viola flaccida Makino Published in: Bot. Mag. Tokyo, 1899 (242)
Viola hebeiensis J.W.Wang & T.G.Ma Published in: Bull. Bot. Res., Harbin 8(2): 130. (1988)
Viola pycnophylla Franch. & Sav. Published in: Enum. Pl. Jap. 2: 285. (1877)
Viola yatabei Makino Published in: Bot. Mag. (Tokyo) 16(183): 122-124. (1902)
|
由来 |
yezoensis : 蝦夷の、yatabei:人名に由来する > 矢田部良吉 (1851-1899) 植物分類学者 |
外語一般名 |
【中】阴地堇菜 |
茎の形態 |
無茎種 |
生育環境 |
山地の湿り気がある日陰を好む。ただし、明るい草地にも生育する。 |
分布 |
国内 |
中部以北の太平洋側山地に多い。釧路、広島、阿蘇近隣、五島列島に点在する。 |
海外 |
中国、朝鮮半島。 |
補足 |
|
花の特徴 |
形状 |
中輪から大輪(花冠は2cm内外)。側弁に毛がある。 |
色 |
白地に細かい紫条が入る(特に下弁に目立つ)。中央部が黄色いこと、裏面が赤紫色を帯びることがある。 |
距 |
太い円筒形(7-8mm前後)。 |
花期 |
普通。 |
花柱 |
逆三角形。 |
芳香 |
微香がある。 |
補足 |
花茎に粗い毛がある。 萼片は広披針形で、付属体に少数の切れ込みがある。 |
葉の特徴 |
形状 |
全体は披針形~長三角形(5-10cm程度)。鈍頭。基部は心形。 |
色 |
一般には両面とも緑色。葉脈に添って白斑が入ることがある。
タカオスミレは春葉が黒褐色から茶褐色、花後には緑色に変化する傾向がある。
|
補足 |
葉柄などに粗い毛がある。夏葉は丸みを帯びて大きくなり、葉柄も長くなる。 |
種の特徴 |
形状 |
中粒。涙滴形(膨らんだ楕円形)。 |
色 |
黒褐色。 |
補足 |
|
根の特徴 |
白い。太めで真っ直ぐ。花後に不定芽を出して繁殖し、群落を形成することがある。 |
絶滅危惧情報 |
千葉県:絶滅危惧Ⅰ類、東京都:絶滅危惧Ⅰ類、新潟県:絶滅危惧Ⅱ類、富山県:絶滅危惧Ⅱ類、山口県:絶滅危惧Ⅱ類、大分県:準絶滅危惧種、熊本県:絶滅危惧Ⅰ類 |
基準標本 |
ヒカゲスミレ : 北海道函館 大島 1861 by Carl J. Maxim.(ロシアの植物学者)
アソヒカゲスミレ : 熊本県阿蘇郡久木野村 1965.4.16 by K. Honda (京都大学収蔵)
|
染色体数 |
2n=24 |
参考情報 |
|
その他 |
- エゾコスミレという別名がある。
- 茎が有毛の個体群と無毛の個体群が見られる。
- 三木順一氏著『スミレ事典(出典:S001)
』によると、ヒカゲスミレはどの型も、横走する根の先から新苗を出す性質がある。地下に匍匐枝(茎)を伸ばして木陰に群落を形成するため、ヒカゲスミレの名がある。
- 井波一雄氏著『スミレの観察と栽培』に、根の先から新苗を出す性質について「土壌の柔らかいところが好まれるわけである」と記載されている。
|
長野県白馬村 1999年5月3日 白馬
群馬県吾妻郡 2010年4月24日 alt.=480m(葉裏面は緑色、表面は軽く茶褐色を帯びるが早期に消える)
ヒカゲスミレ (Viola yezoensis)
群馬県 2012年4月25日
アソヒカゲスミレ (Viola yezoensis var. asoana)
- 神奈川県 2006年3月24日 植栽
- 東京都 2000年7月16日 植栽
- タカオスミレ (Viola yezoensis f. discolor)
- ヒカゲスミレ (Viola yezoensis)
- 東京都 1998年4月5日 植栽
- 静岡県富士宮市 2000年5月3日 朝霧高原
山梨県北杜市 2013年4月13日 alt.=620m
北海道南部から九州まで(近畿以西は点々と)分布する落葉樹林下のすみれです。長野県で見掛けた場所は、比較的標高が高く明るい野原でした。決して日陰ではありません。
タカオスミレはヒカゲスミレの品種。ハグロスミレという呼び方もあります。一説に「タカオスミレとハグロスミレは別であり、一方は黒褐色で、他方は茶褐色、葉の裏の様子も異なる」という見解もあるのだそうですが、この区別が現実に有効かどうかは微妙なところです。
タカオスミレは春の葉が暗褐色となり美しい(夏には薄くなる)。東京都の高尾山でタカオスミレに初めて出会った時の印象は「きりっとしていて、黒人スポーツ選手のようだな」でした。暗褐色の葉に白色の花が良く映えています。勘違いが多いのですが、タカオスミレは高尾山だけに生育するものではありません。
阿蘇山に産するアソヒカゲスミレと呼ばれるものは、葉が瓢箪(ヒョウタン)型となる珍しいもの。阿蘇に住む地元の方に教えていただいた情報では、阿蘇でも限られた村でしか見ることができないとのことでしたので、詳しい説明はしない方が良いと思います。文献によると、阿蘇以外では広島県で見られるそうです。
1999/06/20
さて、国内水平分布を見ていただければお判りだろうと思いますが、大分や熊本でも同じですが、広島で見掛けたタカオスミレがとても意外だったのです。確かに、文献には隔離分布すると記載されていますが、その部分部分である地域をうまく訪れていたのかも知れません。
2007/05/04
広島でタカオスミレを見掛けた場所で、なんとアソヒカゲスミレが自生しているという情報があります。情報元は信頼できると認識しています。また「広島県植物誌(広島大学理学部附属宮島自然植物実験所・比婆科学教育振興会)」にも記載されているようです。そういうことなら、もう一度出掛けてみたいなぁと思っているところです。浜栄助氏は1976に「アソヒカゲスミレ広島県に産す」というノートを植物採集ニュース(87:38)で発表しています。やはり、すごい努力家だったのですね。
2008/09/04
熊本県内の限定的な地域に自生するとされていたアソヒカゲスミレですが、近隣ながら幾つか地域でも自生が確認されているようですね。これは嬉しい話です。出逢う可能性が増えたのかも知れません(補足:2011年、熊本県内で出逢うことができました)。
2009/01/12
青森県五戸町 2007年5月7日 alt.=85m
当時の国内水平分布に記載がなかった青森県の2ケ所でヒカゲスミレを見掛けました。花も葉も大きく、ご覧の通り、花の中心部が黄緑色をしていて、さすがに困りました(笑)。でも、ヒカゲスミレかなと思って見ていると、もう他の種には見えないから不思議ですね。そう言えば、長野県で一面に咲いていたヒカゲスミレも花の中心部が黄緑色だったのを、今更ながらに思い出しました。その後、花の中心部が黄緑色の個体を時々見かけるようになります。
2008/05/13
神奈川県 2010年3月19日 植栽
とても「綺麗」なクリームイエローの花を咲かせているヒカゲスミレ。初めて見ました。夢中で観察して、シャッターを押したのですが、花びら全体が極めて薄い黄色で、花の芯がちょっと濃くなるというすばらしい色合いです。キリットした葉の緑色と対象的です。かなり感激しました。
2010/11/15