三重のすみれ
この文献は、なんと昭和7年の発行です。そして驚くべきことは、しっかりしたハードカバーの装丁、大量に使用された写真や図。記載内容も多岐にわたり、先輩格の方々を詳しく紹介していたり、インチキな行商が毒草を売っていたりするトピックスが写真入りで紹介されていたり、読み物としても面白い内容になっています。どうして、このような書籍を作ることができたのでしょうか。読んでいると、本書出版の後援者として川喜多久太夫氏(號 無茶法師)という人物が、やはり写真付きで紹介されています。別途に調べてみると、三重県津市の旧家、伊勢の豪商一族ですね。時期からすると16代目の久太夫で、川喜田半泥子という禅名を持っているようです。
因みに、この文献は上下2冊セットで拾五円と記載されていたと記憶しています。その価格の下に「送料が75銭」とこちらはアラビア数字で記載されていたようでした。あの大きさの書籍2冊を(宅配便はなかったとすれば)郵便で送ると3,000円ぐらいでしょうか。すると、本体は計算上60,000円程度でしょうか。時代を超えた価値の計算は難しいですね。
検索するために科名を探そうとしたのですが、ひらがなもカタカナも出てきません。それらしい漢字をつぶさに探して、やっと見つかったのは「菫々菜科(ただし異体ばかり)」、最初からたいへんです。メモを取っていると「コモノタチツボスミレ
Viola komonoensis Sugimoto 」等という記載が登場します。分布から類推してコタチツボスミレであろうと判断しましたが、明確ではありません。
(2009/09/22)
スミレ愛好会の『近畿地方のスミレ類』を入手しました。時代の違いでしょうか。大幅に種が増えた感があります。ヒメミヤマスミレとトウカイスミレという違いも、コタチツボスミレとニホンカイタチツボスミレという表現も、時代の違いと言うしかありませんね。シロスミレはホソバシロスミレに訂正しました。古い資料だけに記載があるミヤマスミレ、ハイツボスミレについては、何とも把握しようがありません。
(2017/01/25)
書籍上、表現が不確かな種に関しては除外し、変種や品種については主要なもののみを選びました 〇=自生確認
記号 |
参考資料 |
著者、編者 |
発行/出版 |
発行 |
A) |
三重懸植物誌 上・下 |
伊藤 武夫 |
三重懸植物誌発行所 |
1932年4月20日 |
B) |
近畿地方のスミレ類 -その分布と形態-(増補改定) |
牧 嘉裕・山本 義則 |
スミレ愛好会 |
2016年3月1日 |
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【参考:気象統計情報】 津市の例 (総務省統計局資料を利用) |
各地のすみれ 掲載種について
「各地のすみれ」に掲載しております自生種などの情報は、ご覧いただければ一目瞭然ですが、収集した植物誌など、参考資料の記載内容を紹介しているものです。こうした参考資料は、一般に、県や市などの地方自治体や教育機関、地方の博物館や植物学会、研究団体(個人を含む)などが情報収集の上、編集したケースが多いと認識されます。
それらの参考資料が編集された時期、目的や経緯、情報収集や編集をされた方々の属性はいろいろですので、一貫性は期待できません。また、ご承知の通り、植物分類学の世界でも学術的知見が変わり続けていますので、編纂時期によって種の名称や表現が変わっているのは、むしろ、当然と言えます。
編集者の属性も千差万別であり、正直なところ「ちょっと怪しい」情報も、まぁまぁ存在しています。スミレ科に関する限り、このサイトに訪問されている方々の方が、よりディープな知識をお持ちである場合も多いことでしょう。
「ちょっと怪しい」を超えて、「明らかに外来種である」とか、「これは歴史的に変更された事実がある」、もしくは「単純ミス」などというケースに対しては、それなりの注釈を付けています。
こうした状況を踏まえて、ご意見や情報をいただくこともありますが、全く踏まえていただけず(笑)、『間違いが多いから直せ』といったアドバイスをいただくこともありました。しかしながら、これらの情報は、日本に植物分類学が定着を始めた頃から現在に至る、歴史的側面を含む「記載事実」ですから、皆様からの投稿で作り変えるといった性質もしくは対象ではありませんね。それは、明らかに編者各位にも歴史に対しても失礼な態度ではないでしょうか。
現在、私たちが持っている知識は、こうした試行錯誤も含む歴史の積み重ねの上に成り立っているものです。その知識でさえ、来年には変わってしまうかも知れません。悪しからず、ご了承いただくべき性質だと考えて、簡単な補足を施させていただくものです。ぜひ、ご理解下さい。
(つぶやきの棚)徒然草