香川のすみれ
半世紀ほど前の文献「香川縣植物分類目録」を参照しました。アオイスミレは「あふいすみれ」と記載されています。情報が限られていましたので、手で書き写してきました。複写機がなかった時代には、皆、こんなことをしていたのだろうと思います。この目録は非売品だそうです。一つ一つ活字を拾う様式の活版印刷で、印刷された部分が凹んでいます。おもしろいと思ったのですが、「印刷所」の欄に「高松刑務所作業課」と記載されていました。
ヒメミヤマスミレの記載がありましたが、実際に見てきた愛媛県の例に倣って、トウカイスミレ(裸名→新種として発表、2023/04/20)として扱いました。シロバナスミレと記載されているシロスミレは、地域的にホソバシロスミレで間違いないものと判断しましたが、問題があれば修正します。最後に、扱い切れずに割愛したものがあるのですが、「まるばたちすみれ」という記載です。雑種のマルバタチツボスミレかどうか、確認できる状況にありませんでした。
(2009/08/31)
香川県在住の方のご厚意で「香川県植物誌」の情報を入手することができました。資料A) とB) では、編集時期の違いもありますが、内容に大幅な違いがあります。良く比較すると、合致していない情報がかなりあります。「A) には記載がないけれども、より新しいB) には記載されている」という種は理解できます。でも、逆はどうしたことでしょうか。シコクスミレやトウカイスミレ(前述)は自生していても不思議はない感じがします。ホソバシロスミレ(シロバナスミレと記載)は見当たらなくなったということでしょうか。オオタチツボスミレが自生しているのでしょうか。嬉しいことに疑問点が増えてしまいました(笑)。
(2010/06/21)
疑問点について、前述の香川県在住の方に教えていただきました。先ず、オオタチツボスミレについては「今年も確認」との明快なお話です。シコクスミレやトウカイスミレですが、「もしかして半世紀前にはあったのかもしれませんが。。。」とのこと。さて、問題はシロバナスミレです。勝手にシロスミレと理解していましたが、どうやらアリアケスミレの方らしいのです。当時の状況は想像するしかないのですが、そんな時代だったのかも知れません。更にタチスミレについても質問してみたのですが、「誤認ではないかと思われます」とのことでした。
信頼に足る情報をいただいたと理解しています。ここで、痛し痒しなのですが、過去の資料に記載されていた事実は変えられないとすべきでしょうか。解釈として間違っていたことが判明した部分については、修正することにしました。誠にありがとうございました。
(2010/06/23)
書籍上、表現が不確かな種に関しては除外し、変種や品種については主要なもののみを選びました 〇=自生確認
記号 |
参考資料 |
著者、編者 |
発行/出版 |
発行 |
A) |
香川縣植物分類目録 |
香川縣博物学會(代表・浦上仁一) |
香川縣博物学會 |
1967年11月5日 |
B) |
香川県植物誌 |
香川県環境保健部自然保護課 |
香川県 |
1981年3月 |
C) |
高知県の植物 第14号 四国産スミレ属の研究(愛媛県産植物の種類より) |
土佐植物研究会 |
土佐植物研究会 |
1998年1月 |
D) |
高知県の植物(2003/第17号)香川産スミレ目録 |
林 鈴以 |
土佐植物研究会 |
2003年1月 |
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【参考:気象統計情報】 高松市の例 (総務省統計局資料を利用) |
各地のすみれ 掲載種について
「各地のすみれ」に掲載しております自生種などの情報は、ご覧いただければ一目瞭然ですが、収集した植物誌など、参考資料の記載内容を紹介しているものです。こうした参考資料は、一般に、県や市などの地方自治体や教育機関、地方の博物館や植物学会、研究団体(個人を含む)などが情報収集の上、編集したケースが多いと認識されます。
それらの参考資料が編集された時期、目的や経緯、情報収集や編集をされた方々の属性はいろいろですので、一貫性は期待できません。また、ご承知の通り、植物分類学の世界でも学術的知見が変わり続けていますので、編纂時期によって種の名称や表現が変わっているのは、むしろ、当然と言えます。
編集者の属性も千差万別であり、正直なところ「ちょっと怪しい」情報も、まぁまぁ存在しています。スミレ科に関する限り、このサイトに訪問されている方々の方が、よりディープな知識をお持ちである場合も多いことでしょう。
「ちょっと怪しい」を超えて、「明らかに外来種である」とか、「これは歴史的に変更された事実がある」、もしくは「単純ミス」などというケースに対しては、それなりの注釈を付けています。
こうした状況を踏まえて、ご意見や情報をいただくこともありますが、全く踏まえていただけず(笑)、『間違いが多いから直せ』といったアドバイスをいただくこともありました。しかしながら、これらの情報は、日本に植物分類学が定着を始めた頃から現在に至る、歴史的側面を含む「記載事実」ですから、皆様からの投稿で作り変えるといった性質もしくは対象ではありませんね。それは、明らかに編者各位にも歴史に対しても失礼な態度ではないでしょうか。
現在、私たちが持っている知識は、こうした試行錯誤も含む歴史の積み重ねの上に成り立っているものです。その知識でさえ、来年には変わってしまうかも知れません。悪しからず、ご了承いただくべき性質だと考えて、簡単な補足を施させていただくものです。ぜひ、ご理解下さい。
(つぶやきの棚)徒然草